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骨太なおっさんは繊細さを合わせ持つ [読書]

 淡々と描写された場面にも関わらず、その場に自分がいるかのように感じることがある。本当に伝えたいことがストレート伝わるように書く技術が作家にあるからなのか、自分の経験に重ねられる部分にフォーカスして読んでいるからなのか。
 伊集院静の「なぎさホテル」を読んでいる最中、砂浜に規則正しく押し寄せる波の音が聞こえた。台風で荒れ狂う海鳴りの音が聞こえた。シンプルな文章が私の中の海の記憶と上手く結びついたのだろう。海無し県で生まれ育って海に対しては憧ればかりで実体験は乏しいんだけどね。
 読み終わって伊集院静は好みの作家のような気がしたので、他に面白そうな著書がないかと調べてみた。検索上位に文春で連載していた人生相談のダイジェスト版の記事があった。とある質問に「吊すぞ」と骨太な回答をしたかと思えば、盆という行事の情緒性を細やかに伝えたり、相談者よりも相談の中で語られる悩みの原因となっている人へのやさしさが感じられた。
 気に入ってしまった。次は「悩むが花」を読もう。
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斜めに読まないこと [読書]

 主役と主題を間違えていたことに気づかないまま小説を読み終えていた。ブログ用の文章を書こうと、ざっと読み返えした冒頭でそのことに気が付いた。
 複数の登場人物がそれぞれに一人称で物語を進めて、誰が主役なのかわからない、あるいは主役がいない小説はある。けれど400頁近い小説でその9割以上を一人称で物語を引っ張る女の子が脇役で、その義理の父親が主役という本はなかなかないのでは。
 残り数頁と分かる紙の厚さに物語の終わりを感じだした頃、女の子から義理の父親に語り手が代わり、「そういう終わらせ方ね」なんて思ったのだけれど大間違い。してやられた。

 母親との死別や父親の再婚と離婚で5人の親がいる女の子(ちなみに5人の内訳は母親が2人に父親が3人)。女の子は物語の冒頭で「困った。全然不幸ではないのだ」と語り始める。
 その女の子の5番目の父親である森宮さん。東大出の変わり者的な役割での登場で、父親として気負いなど感じさせず、世間ずれした感覚で女の子を支える。かと思いきや実は父親として真剣に娘と向き合おうとしている。それがじわじわと伝わってくる感じがとても良い塩梅で、物語後半の昭和の頑固おやじのような態度も予定調和的な臭さを感じさせない。癖のある良い人は脇役として最強だと思う。5人の親の中でも一番親らしくないそのキャラクターに騙されてしまった。

 『そして、バトンは渡された』というタイトルをそのまま受け止めれば、親という役割を引き受けた人の話なワケで、何をグダグダと書き連ねているんだ俺。という記事でした。


【2019年本屋大賞 大賞】そして、バトンは渡された


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