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アガサ・クリスティーの作品を読むのはこれが初めて [偽善者の日記]


『春にして君を離れて』は怖い小説だ。嫌な小説だ。それでいて面白い。
 自分は我が強い割に人からどう見られているか気にするところがある、と思う人にはこの本はすすめられない。一方でそんな人は、この小説をより深く堪能できるのではないかとも思う。

 主人公は中年の女性。
 主たる舞台は中東。
 周りには砂漠しかない宿泊施設に交通事情で足止めされた主人公。

 作者はアガサ・クリスティー。
 けれど殺人はない。名探偵もいない。

 満たされていたと思っていた人生への疑問。
 徐々に心の闇に浸食されていく主人公。 

 最後に主人公が発する一言までの心の移ろいが絶妙としか言いようがない。
 心はいつでも素直で移ろいやすく安易なところに落ち着く。 

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/04/16
  • メディア: 文庫



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コメント 2

もっきー

僕もコレ洋書で読みましたが、アガサにはまるきっかけとなった一冊です。
最後から5ページのところだったかな、トイレに入ろうとしたところをとがめられた主人公が、股間に手を当てながら叫んだ
『I was a man.』の一言は衝撃が走りました。
さすがの僕でも普通の女性だと思い込んでいましたから。
戸籍上は女になっても、竿は残していた主人公の不安定な心境を見事に表現していましたね。
その手があったかと、電車の中で思わず膝を叩いてしまったのを覚えています。

パキさんはどのシーンが印象的でしたか?
by もっきー (2016-03-06 04:49) 

パキ

>もっきー さん
さすがイギリス文学を語らせると深いところを突いてきますね。
主人公が言い放った『I was a man.』の波紋が収束した後の静寂の表現こそがアガサ・クリスティーが世界的な作家であることの所以なんでしょうね。
 ネタばれに近いですが、自分が女なのか男なのかを自問の末に見出すラスト数ページ。洋書で読まれたのあればアガサ・クリスティーが日本贔屓だったことに気づいたと思います。あれ、当時のイギリス人で理解した人は少ないんじゃないかななんて思います。
by パキ (2016-03-07 22:40) 

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